○○するお話【中編つめあわせ】


「いいよ。おまえと別れるかもしれないって思ったら、仕事とか他の事、何も見えなくなって目の前が一気に真っ暗になったんだ。
それに比べたら指咬まれるくらい、なんでもねーし。
傷残してくれた方が、それ見ていつまでも思い出せるからいいかもな」

一呼吸置いた後、恭くんが覇気のない声で呟く。

「俺もう、こんな思いすんのはちょっと無理だ」

自嘲するような微笑みに共鳴するみたいに、胸がきゅっと縮こまった。

冷たくされてショックだった。話を聞いてもらえなくて、誕生日のプリンも食べてもらえなくて、悲しかった。寂しかった。
それはきっと、ずっと私の中にあって消えない。

でも……もしかしたら恭くんも、例え同じじゃなくても、今回の事でずっと消えないモノを感じたのかもしれない。

あんなに必死にしてた仕事を放り出して、私を迎えにきてくれた。
スーツ乱して、髪だってぼさぼさにして、息切らせて……必死で、私のところにきてくれた。
それが、何よりの証拠だ。

目の奥からじわって熱くなって、熱を持った滴が頬を伝って落ちる。
じっと見上げていると、恭くんは「あれ。咬まねーの」って、困り顔で微笑んだ。

その表情に……瞳に。
隠しきれない愛しさが溢れる。
どうやったって、何されたって消せない愛しさが……溢れる。

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