○○するお話【中編つめあわせ】


「人間界にも位があるのは知ってるだろ? 一般庶民と貴族。その貴族が今度この街に越してくるらしいぜ」
「へぇ……。貴族なんて珍しいね。昔、馬鹿な吸血鬼が歯止めも利かずに襲い掛かったせいで今の人間界にはほとんど残ってないって話なのに」
「だろ? だからさ、引っ越してきたらちょっと味見程度に……」
「でもカイ。貴族なんて、厳重に守られるものなんじゃないの? 簡単に味見できるとは思えないし俺は面倒くさそうだからパス。第一、普通の人間の血だってそこまで悪くないし、お腹に入れば一緒でしょ」

こちらにチラリとも視線を向けずに言うアキラに「ブレねぇなー」と笑ってから足を組んで両手をベッドについた。

「厳重な警備を掻い潜って、上級な血にありつくとか。そんなゲームよりもよっぽどそそると思うけどなぁ」
「自分が勝てないからって」
「あれは俺の本気じゃない」
「どうせひとりでも行く気満々なんでしょ?」

ゲームを見つめたまま聞かれて「んー」と言ってから「分かる?」と笑ってみせた。

「すげー美味かったら教えてやるよ」
「別にいい。警備とか面倒くさい」

そう言ったアキラが、俺がこの部屋に入ってきて初めて目を合わせて聞く。

「で、いつ引っ越してくるの? その貴族」

俺と同じように底光りする瞳に「三日後」とニッと笑いながら答えた。


< 95 / 155 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop