○○するお話【中編つめあわせ】
振り向いた先にいるのはひとりの少女だった。
明るい栗色の、腰まで伸びたくせ髪に、女にしては高い身長。180ある俺より、10センチ低いくらいだろうか。
恐らく170に届く身体は見るからに華奢で、着ているパジャマから覗く手首や足首は簡単に折れてしまいそうに見える。
息を呑むほどに白く綺麗な肌ももちろん気になるところだったが……それよりもなによりも気になるのは。
少女の瞳が驚きを浮かべるわけでもなく俺をぼんやりと見ているからだった。
俺が今身にまとっているのは、黒いシャツに黒いパンツ、そして黒いマント。全身みごとに真っ黒。
本来、マントは必要もないし、銃弾を弾いたりとかの防御力もないし、こう言っちゃあれだが完全なカッコばかりのレプリカだ。
昨今、吸血鬼界でもつけているヤツはほとんど見ない。というか、最近の話に限らず、つけてるヤツなんか昔からいない。
あんなの、人間界で〝吸血鬼〟とされる絵だとか映画で描かれているだけだ。
だから俺も普段はつけないけど、今日は貴族相手だしなってか貴族相手とか俺映画スターみたいじゃねぇ?とテンションが上がってカッコつけたくてつけてきただけだが……。
だけど、マントのおかげで俺は多分、見るからに吸血鬼だと思うのに。これぞ、人間が架空の世界に作り上げた吸血鬼像だと思うのに。
二階の窓からひらりと軽やかに侵入してきた時点でもう、恐らくほとんどの人間は吸血鬼だと判断していいハズなのに。
なのにどうした事か、貴族の少女は黙ったままこちらを見ているだけで逃げようとも叫ぼうともしないのだから、どうしたものかと思う。
あんまり泣き叫ばれても正直萎えるけど、ここまで無反応なのもなんか……なんとなく吸血鬼の沽券に関わるってもんだ。