さちこのどんぐり
「どうだった?検査は」
正樹と香奈は病院内にあるカフェテリアのテラスにいた。

芝生が敷かれた中庭と建物の間に煉瓦が敷かれて、20席くらいの白いテーブルとイスがある

香奈が顔を上げると
彼女のほぼ真上から暖かな日差しを感じる。
風は少し冷たいけど心地いい。

香奈は目が見えなくなってから、
ほかの感覚が研ぎ澄まされていくような気がしていた。

最近は母親の声を聞いただけで、
彼女のささいな感情の動きまで分かるような気がする。

もちろん正樹の声も

だから、なんとなく香奈は正樹の声に切ない感情を感じていた。




「あ!ネコがいる!ノラネコだな」
正樹が言った。

「本当?私ネコ大好き!家でも飼ってるんだよ!ショートヘア!」
香奈は思わず叫んだ。

正樹が指を口にくわえて
ぴぃぃぃぃーと指笛を鳴らすとネコがこっちを見た。

「こっちに来るぞ。よーしよーし…おいで…」

正樹が手を差し出すと、そのネコは警戒しながら、少し距離をとって二人を見ている。

「いまの音、指笛?ぴーって? すごーい!ふけるんだね?」

「小さい頃に近所のサッカーのコーチに教えてもらったんだ」

「ねえ!どんなネコ?」と香奈が聞くと

「白いネコだよ。いや汚れちゃってグレーネコだな」

正樹との会話は楽しかった。不安ばかりだった入院生活が楽しく感じられた。

「いまのところは予定どおり来週手術だって。経過を診ながら1週間くらいで包帯もとれて、徐々に見えるようになってくるって先生が言ってた。」

先の正樹の質問に香奈は答えた。



「早く正樹くんを見たいなぁ」

「惚れてもしらねぇぞ!俺かなりイケてるからな」

「うん、おかあさんが背も高くてイケメンだって言ってたよ」

その言葉に正樹は大声で笑っていた。


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