さちこのどんぐり
そのため、彼女に対して感じるストレスを、大森は抑えたかったし、
イライラしてしまう自分をなんとかしなくてはと悩んでいた。

ところが、そうやって感情を抑えてしまっていること自体、
奈津美は最近、不満に思っているようだ。


昨夜、このところ続けて大森の部屋に遊びに来ていた奈津美が来なかった。

アルバイト先で送別会があり、
それに参加することは事前に奈津美から聞いていたし、
これまでも「大学の友人と遊びに行く」とか「学生同士のイベントがある」とかで大森の部屋に来ない日もよくあった。

だから彼は
「遅くなったから、今日も、まっすぐ自分の部屋に帰ったのだろう」
ぐらいにしか考えていなかったが、全く心配しなかったかといえばウソになる。

だから、
「遅くなるようだったら、部屋に帰ってから無事だけはメールで教えてくれ」
と奈津美に頼んでいた。

深夜の一時ごろに
「いま帰ってきたよ」と奈津美からメールが来た。

大森はほっとして
「メールありがとう。おやすみ」と返したときだった。

奈津美から電話がかかってきた。

「なんで!もっと心配したり、疑ったりしないの!」なぜか怒ってる。

「夜で時間遅いから心配はしてたよ。でも無事に部屋着いたのを教えてもらったのに、何をこれ以上、心配したり、疑ったりするんだ?」

「私が他の男の子と一緒じゃないかとか…
かーたんって全然、ヤキモチとかやいてくれない!」

大森が全くそういう心配をしていなかったわけではない。

アルバイト先での飲み会なら、おそらく奈津美と年の近い男たちも大勢いたであろうし、奈津美と付き合うようになってから、そんな男たちの若さに嫉妬することもあった。

しかし、その感情を奈津美にぶつけてしまって、奈津美に嫌われるが怖かった。


「かーたんのバカ!」

涙声の奈津美はそこで電話をきった。


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