さちこのどんぐり
◆プロポーズ

吉田克弥と彼の妻である舞子は結婚して40年。
職場で知り合った。

何度かデートを重ねた後に
二人で行った公園の大きな池のほとりで吉田が舞子にプロポーズをしたとき

「結婚してください」

緊張しながらプロポーズした吉田に、舞子はいたずらっぽく

「えー指輪は?大きい宝石がついた指輪」

当時、苦学して大学を卒業し、まだ社会人になったばかりの吉田に
そんなお金がないことなど知っていた舞子にとって
宝石のことなんか、実はどうでも良かったんだが、

でも照れ臭くて、つい、そんな言葉が口から出てしまったのだ。

吉田は一瞬言葉を失ったあとに
たまたま足元にあった「どんぐり」を拾い上げると

「いつか、これっくらいの宝石の付いた指輪を必ず、きっと贈ります」

舞子はにっこり笑って、ひとこと
「宜しくお願いします」と答えた。

< 88 / 163 >

この作品をシェア

pagetop