彼岸の杜
「なっ、何を…!!」
「母さん」
しん、とその一言でこの場に一気に静寂が広がった。あたしもビクッと体を跳ねさせてしまう。それぐらい、普段からは想像もできないくらいに温度のない声だった。冷たいとか怒りに燃えてるとかじゃない、無機質な声。
いつの間にかあたしから離れて清二さんはおばさんと真正面から向き合っている。こちらからは清二さんの顔は見えないけどおばさんや他の人の顔が固まっているのでどんな風なのかは言わずもがなというやつである。清二さんの顔、見えなくてよかった…
「僕は、この家を出ます。ここに僕の居場所はない」
「なっ、清二さん!!」
ざわりと動揺が広がる。周りの人も大層驚いただろうがあたしだってその比じゃない。え、清二さんってこの村で偉い地位にいるんだよねどっちかというと。そんなこと言っていいのか。
でも清二さんは決意した声でまっすぐと背を伸ばしている。
「本当はもっと早くそう言うべきでした。僕が優柔不断でどちらかを選べなかったせいで僕はたった1人の何物にも代えがたい人を失ってしまった。僕自身が生きる意味を失ってしまった…もう迷いません」
凛とした雰囲気と決意は茜を失ったからこそのもの。だからこそ悲しくて切なかった。