強引社長の甘い罠
 私が慌てて課長を呼びとめたとき、背後から別の低い声が聞こえてきた。

「彼女にモデルは適任とは思えませんね、鈴木課長」

「えっ?」

「はっ?」

 私と鈴木課長が同時に振り返る。思っていたとおり、そこには完璧な笑みを浮かべた長身の男性が立っていた。

「桐原社長。いらしてたんですね」

「ええ、ついさっき」

 白い歯を見せて笑う祥吾は優雅な動作で歩みよると私の隣に立った。私が言葉もなく祥吾を見上げると、彼も私を見下ろす。一瞬鋭い視線を私に投げたように思えたけど、すぐにまた口角を上げた。鈴木課長に言った。

「ちょうどここに来たとき、話が聞こえてしまったんですよ。エステのモデルが必要だとか」

「ええ、そうなんです。事情があって七海さんにお願いしていたところです」

「どうして彼女に?」

「え?」

 祥吾の質問に、鈴木課長が困惑した表情を浮かべた。当然だ。そんなことにまで祥吾が口を挟んでくるなんて誰も予想できなかった。
 鈴木課長はほんの少し眉を吊り上げ、肩を竦めてみせる。社長である祥吾の前でも実に堂々とした態度だ。
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