強引社長の甘い罠
 私は深く息を吸うとはっきりと言った。

「いえ、私がやります。もともと私が任された仕事ですし、実際に体験した方がいいページが作れると思います。私に任せてください」

 私の中の感情的な何かが急に押さえつけられなくなってきて、気づけば課長に向かって断言してしまっていた。決してこんなつもりじゃなかったのに、祥吾に出来ないと決め付けられて反発心が起こったのだ。そして、私よりも皆川さんの方が適任だと言われたことにも、腹を立てていた。それを言ったのが他の誰かならこんなに怒ったりしない。当然よね、と納得すらしたと思う。だけど、祥吾は私の恋人でしょう?

 急に隣から冷たい風が吹いたような錯覚を覚えて見上げると、祥吾がそのブルーの瞳をいつになくぎらつかせて私を見下ろしていた。すぐに分かった。彼は怒っている。一見、冷静で落ち着いて見える彼だが、間違いなくその瞳には怒りが宿っていた。

 ほんの少したじろぐ。だけど、怒りたいのは私だって同じだ。今朝、私に言った言葉をもう忘れてしまったの? 今も変わらずキレイだと言ってくれたのはお世辞だったとでもいうつもり? そんな冗談笑えない。

 鈴木課長が私を見て頷いた。その顔には微笑が浮かんでいる。

「どうでしょうか? 七海さんもこう言ってくれてますし、この仕事を進める上でマイナスにはならないと思います。私が責任を持って……」

「ええ、もちろん異存はないですよ。彼女が尻ごみしているようでしたので言ったまでです。本人がやる気なら何も問題はない。きっといいものが出来るでしょう」

 祥吾が鈴木課長に向けて笑顔を作った。私の方をちらとも見ない。鈴木課長も微笑む。

「ええ、きっとそうなります。じゃあ早速先方に伝えてきます。七海さん、いいわよね?」

「あ、はい」

 私が返事をすると、鈴木課長は自分のデスクへ引き返そうと、くるりと背を向けた。そして、思い出したように振り返って祥吾に訊ねた。
< 134 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop