強引社長の甘い罠
「それじゃあ私は帰るわね。七海さんも、またね」

 彼女は話の内容を私に聞かれたことなど、何とも思っていないかのように、このことには一切触れず、颯爽と帰って行った。私はその背を呆然と見送るだけだった。

「唯、ちょっと話せるかな」

「聡……」

「きちんと説明させて欲しいんだ」

 私の目の前に立った聡が真摯な眼差しを向けた。

「……うん。でも、今は仕事中だから……。私、ここへは頼まれた資料を取りに来てて……」

「ああ、分かってる。今夜は空いてる?」

「ええ、多分……大丈夫だと思う」

「良かった。じゃあ仕事が終わったら連絡するよ」




 聡は少し仕事が残っているということだったから、私は一度家に帰り、自宅で連絡を待つことにした。八時を少し過ぎた頃、聡から連絡が入ったので、私の自宅近くにあるファミレスで待ち合わせた。
 聡は時間通り、八時半にやってきた。バツの悪そうな、申し訳なさそうな顔をした聡は、私を見つけると軽く手を挙げてこちらにやって来て、私の向かいの席に座った。

ややお疲れモードにもみえる聡だが、彼の魅力には全く関係ないらしい。少し茶色い髪と整った顔立ち、切れ長の瞳がいかにもデキるサラリーマンといった彼は、この店に入ってから席に着くまで、女性客の視線を独り占めにしていた。
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