強引社長の甘い罠
「そろそろ?」

「ええ。聞いていなかった? あなたが今日担当するお客様、今あなたたちがやってるオークション組合の理事なのよ」

「え……えええっっっ?」

「何でも先方直々のご指名だって聞いたから、私たち、てっきりあなたと知り合いなんだと思っていたんだけど……違ったの?」

 杉浦さんが人差し指を顎にあて、首を傾げた。そんな仕草も甘えて見えないのは、彼女のややきつい印象を受ける外見のせいだろう。

 それにしても、そんな偉い人がなぜ私を指名するの? 私はただWebページの作成を担当することになっただけで、私と面識なんてないはずだ。それに私は、てっきりこの役目はクジで押し付けられたものだと思っていたのに、まさかそんな事情があっただなんて。
 寝耳に水の話に、私はどう対応していいのか分からなくなる。きっと顔が引き攣っているに違いない。

 杉浦さんが大げさに肩を上下させて大きく息を吐いた。

「とにかく、そういうことだから。頼んだわよ」

 そう言った彼女が私の肩をぽん、と軽く叩く。
 と、その時、真っ赤な細身のスーツに身を包んだ、とても派手で綺麗な女性が到着したエレベーターから降りてきた。

 赤すぎるとも思われるワインレッドの長い髪をゴージャスに巻き、赤いピンヒールの靴を履いた脚はスラリと細い。ウエストは見事にくびれ、バストは女性らしい豊さを強調している。真紅の口紅で完璧な弧を描いた口元と、長く密集した睫。まるでどこか夜の街に迷い込んでしまったような錯覚に陥った。

 その女性がエレベーターから降りた瞬間、私を見て一瞬目を鋭く光らせたような気がした。

「ほら、あの人よ。さっき話したあなたの担当するお客様」
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