強引社長の甘い罠
 いつもここへ来るときは祥吾と一緒だったことを思い出させられた私は意気消沈した。彼と一緒じゃないとまるで手も足もでないこの大きな要塞を恨めしげに眺める。スマホを取り出して時刻を確認すると、まもなく夜八時になろうとしていた。

 もしかしたら祥吾はもう帰宅していて、私は今日、彼に会えないのかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。私はブルブルと頭を振った。今日はどうしても彼と話す必要がある。弱気になってはダメ。
 取り出したスマホで祥吾の番号を表示させると彼に電話をかけた。多分繋がらないだろうと思っていたとおり、電話はすぐに留守番電話に切り替わる。私は深い溜息をつくと肩を落とした。

 そして顔を上げたとき、見慣れた青いBMWが目の前を通り過ぎた。すぐ脇にある地下駐車場の入り口へと向かう。車が左折するためウィンカーを出した。祥吾の車だ!

「あっ……」

 私は急いで走り寄った。駐車場のゲートが開いて車が入ってしまったら、私はまた祥吾に会えなくなってしまう。そうなる前に彼を捕まえなければならない。
 幸い、祥吾が車で帰宅することを予測していた私は、駐車場のすぐ脇で待機していた。だから急いで走り寄ったら何とかギリギリのところで彼を捕まえることが出来た。

「祥吾……!」
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