強引社長の甘い罠
私は背中に隠した右手の拳を握り締めると、ぐっと歯を食いしばって祥吾を見つめた。彼の瞳を見て動揺してはならない。
だけど、次の瞬間、そんなことをしても全くの無駄だったことを思い知った。
彼の少し薄い唇から滑り出した低く深みのある声が、私をたちまち引きずり込んだのだ。
「七海さん、と言ったね。君はどうしてここに?」
彼は私の名を呼んだ。名前ではなく、苗字ではあるけれど。彼が、間違いなく私の名を口にした。まるで初めて会った相手に確認するような響きではあったけれど。
彼の唇が私の名前を形作ったという事実と、それが初対面の相手に対する響きを持っていたことに動揺する。私は嬉しいの? それとも、悲しいの? どうして冷静でいられないの?
「あ……」
「私の案内役だったのよ」
喉が詰まって声にならなかった私を嘲笑うように、佐伯さんが口を開いた。祥吾の腕に巻きつけている腕に力を込めさらに彼に寄り添う。背の高い彼の肩に頭を預けるようにしてから、私を見た。
「でも、もういいわ。用事は済んだし。後は祥吾に案内してもらうから、あなたは自分の仕事に戻ってちょうだい」
「え、でも……」
「いいから! もう戻って」
佐伯さんが目を吊り上げて私を睨みつける。私はそれ以上何も言えなくなった。
ちらりと祥吾を見上げると、彼はその青い瞳から、感情の読めない冷たい視線を私に向けている。その視線が私の心臓を凍りつかせた。全身が総毛立つ。彼の抑揚のない声が響いた。
だけど、次の瞬間、そんなことをしても全くの無駄だったことを思い知った。
彼の少し薄い唇から滑り出した低く深みのある声が、私をたちまち引きずり込んだのだ。
「七海さん、と言ったね。君はどうしてここに?」
彼は私の名を呼んだ。名前ではなく、苗字ではあるけれど。彼が、間違いなく私の名を口にした。まるで初めて会った相手に確認するような響きではあったけれど。
彼の唇が私の名前を形作ったという事実と、それが初対面の相手に対する響きを持っていたことに動揺する。私は嬉しいの? それとも、悲しいの? どうして冷静でいられないの?
「あ……」
「私の案内役だったのよ」
喉が詰まって声にならなかった私を嘲笑うように、佐伯さんが口を開いた。祥吾の腕に巻きつけている腕に力を込めさらに彼に寄り添う。背の高い彼の肩に頭を預けるようにしてから、私を見た。
「でも、もういいわ。用事は済んだし。後は祥吾に案内してもらうから、あなたは自分の仕事に戻ってちょうだい」
「え、でも……」
「いいから! もう戻って」
佐伯さんが目を吊り上げて私を睨みつける。私はそれ以上何も言えなくなった。
ちらりと祥吾を見上げると、彼はその青い瞳から、感情の読めない冷たい視線を私に向けている。その視線が私の心臓を凍りつかせた。全身が総毛立つ。彼の抑揚のない声が響いた。