強引社長の甘い罠
第二章

絶望感と戸惑いと

 土曜日の午後。オートオークションの仕事が入って忙しくなったとはいえ、今のところはまだ、聡も休日は休めるようだ。私たちは遅めのランチに出た後、以前から約束していた映画館へと来ていた。観たい映画があったのだ。

「休日の映画館なんて、来るもんじゃないな」

 混雑したロビーで、聡がうんざりした様子で呟いた。

「そんなこと言ったってだめよ。前から約束してたんだから」

「わかってるって。だけど見ろよ、あの列。今からあれに並ぶのかと思うと……」

 そう言って聡はチケット購入の列を眺めて大きく溜息をつく。そこには、五つもある窓口の前に長蛇の列が出来ていた。
 私はにっこり微笑むと、バッグからスマホを取り出し聡に見せた。得意げに鼻を鳴らす。

「安心して。ちゃんと席は押さえてあるから」

「え、マジ?」

「当然よ。ちゃんとネットで予約しておいたわ」

「おー、さすが唯! 列に並ぶのが嫌いな俺をよく分かってくれてるなー」

「ちょ、ちょっと、聡……」

 聡が大げさに感激して私に抱きついたものだから、不意打ちをくらった私はよろけて一歩後ずさった。その拍子に背中にドンと衝撃を受ける。すぐに人にぶつかったのだと理解した。

「ごめんなさい……!」

 慌てて謝った私は顔を上げて固まった。ドクンと大きく鳴った心臓が凍り付いてしまったみたい。そのまま呆然と立ち尽くす私に、聡の方が素早く反応した。
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