強引社長の甘い罠
「社長……!」
私がぶつかった相手は、祥吾だった。ネクタイこそしていないが、休日だというのにグレーのストライプのシャツに黒いスラックス、同じ黒の革靴を履いた彼は、まるでこれから仕事に出掛けるようなスタイルだ。
だけど仕事じゃないことくらい、すぐに分かった。
ハッと息を飲むほど美しい女性が、祥吾に寄り添い立っていたのだ。
「祥吾の会社の人?」
女性が尋ねた。真っ赤なワンピースに身を包んだ彼女が動くと、きつい香水の匂いが鼻をつく。私が一年働いても買えそうにないアクセサリーを身につけている彼女は、腰まで垂らした長い髪を手で払う仕草も、優雅で気品に満ちていて、一目で裕福な女性だということが分かった。
「あ……」
彼女を見た聡がめずらしく動揺した。すごい美人だからさすがの聡も舞い上がってしまったのだろうか。
すると女性は聡に向かって右手を差し出し、握手を求めた。
「はじめまして。佐伯です。祥吾とは公私ともに親しくさせていただいているの」
「はじめまして。井上です」
聡が笑顔で応じる。佐伯と名乗った女性は続いて私にも握手を求めた。
「……な、七海です。はじめまして」
笑顔を見せるなんて、とても出来なかった。祥吾と一緒にいる彼女と目を合わせるのが精一杯。彼女、佐伯さんが、ブラウンの瞳をきらめかせて微笑んだ。
聡が祥吾に向き直って頭を下げる。
「社長、すみません。ぶつかってしまって」
「いや、構わないよ」
私がぶつかった相手は、祥吾だった。ネクタイこそしていないが、休日だというのにグレーのストライプのシャツに黒いスラックス、同じ黒の革靴を履いた彼は、まるでこれから仕事に出掛けるようなスタイルだ。
だけど仕事じゃないことくらい、すぐに分かった。
ハッと息を飲むほど美しい女性が、祥吾に寄り添い立っていたのだ。
「祥吾の会社の人?」
女性が尋ねた。真っ赤なワンピースに身を包んだ彼女が動くと、きつい香水の匂いが鼻をつく。私が一年働いても買えそうにないアクセサリーを身につけている彼女は、腰まで垂らした長い髪を手で払う仕草も、優雅で気品に満ちていて、一目で裕福な女性だということが分かった。
「あ……」
彼女を見た聡がめずらしく動揺した。すごい美人だからさすがの聡も舞い上がってしまったのだろうか。
すると女性は聡に向かって右手を差し出し、握手を求めた。
「はじめまして。佐伯です。祥吾とは公私ともに親しくさせていただいているの」
「はじめまして。井上です」
聡が笑顔で応じる。佐伯と名乗った女性は続いて私にも握手を求めた。
「……な、七海です。はじめまして」
笑顔を見せるなんて、とても出来なかった。祥吾と一緒にいる彼女と目を合わせるのが精一杯。彼女、佐伯さんが、ブラウンの瞳をきらめかせて微笑んだ。
聡が祥吾に向き直って頭を下げる。
「社長、すみません。ぶつかってしまって」
「いや、構わないよ」