強引社長の甘い罠
会社を出ると朝から降っている雨はうんざりする程雨足を強めていた。梅雨入りはまだのはずなのに、今週は月曜からずっと雨だ。私は雨が降ると湿気で膨らんでしまう自分の髪質を呪いながら聡の隣を歩く。
まもなく聡とやって来たのは、彼の自宅近くの居酒屋だ。ここは私たちがよく利用する店で、金曜日は大抵、ここで二人で食事をして、私が聡のマンションに泊まるというパターンが続いている。
私たちはお付き合いをしているわけだし、彼も私も一人暮らしだ。恋する女性ならば、彼のために手料理を作ろうとするのだろう。
けれど私は違う。
だって、何を隠そう、私は料理が一切できないのだ。料理どころか洗濯や掃除も本当は大嫌い。それでも汚い部屋で過ごしたり汚い服を着るのは嫌だから、渋々こなしてはいるけれど、やらなくていいものならやりたくはない。
だから、この忙しい日常の中で、彼のために苦手な料理を頑張ろうなんて気は、なかなか起こらなかった。
だけどこんな私にも、そんな可愛い乙女心を持っていた時期は確かにあった。
まだ成人したばかりのあの頃、私の世界は、当時つきあっていた彼を中心に回っていた。私は彼のことが大好きで、このままずっと付き合って、将来は結婚したいと夢見ていた。まさか彼に捨てられる日が来ようとは、思ってもいなかった。
昔の淡い恋心を思い出し、胸が鷲掴みされたように痛む。未だにこんなにも傷ついている自分に、私はそっと溜息を零した。もうあれから何年経ったと思っているの? いい加減、忘れなければ……。
「どうしたの、唯? 今日は全然飲んでいないね」
そんな私の心の内を知るはずもない聡が、心配そうに私を見つめていた。気遣わしげに私の顔を覗き込む。
「疲れた?」
「ううん、平気。ただ今日はお腹が空いちゃって。飲むよりもたくさん食べたいな」
聡に心配をかけたくなくて、私は無理やり微笑んだ。
私の恋人は聡だ。彼の前で昔の恋人のことを思い出して傷つくなんて、おかしいでしょう?
私は、彼が私のために頼んでくれたテーブルいっぱいに並んだ料理を、彼への罪悪感と一緒に飲み込んだ。
まもなく聡とやって来たのは、彼の自宅近くの居酒屋だ。ここは私たちがよく利用する店で、金曜日は大抵、ここで二人で食事をして、私が聡のマンションに泊まるというパターンが続いている。
私たちはお付き合いをしているわけだし、彼も私も一人暮らしだ。恋する女性ならば、彼のために手料理を作ろうとするのだろう。
けれど私は違う。
だって、何を隠そう、私は料理が一切できないのだ。料理どころか洗濯や掃除も本当は大嫌い。それでも汚い部屋で過ごしたり汚い服を着るのは嫌だから、渋々こなしてはいるけれど、やらなくていいものならやりたくはない。
だから、この忙しい日常の中で、彼のために苦手な料理を頑張ろうなんて気は、なかなか起こらなかった。
だけどこんな私にも、そんな可愛い乙女心を持っていた時期は確かにあった。
まだ成人したばかりのあの頃、私の世界は、当時つきあっていた彼を中心に回っていた。私は彼のことが大好きで、このままずっと付き合って、将来は結婚したいと夢見ていた。まさか彼に捨てられる日が来ようとは、思ってもいなかった。
昔の淡い恋心を思い出し、胸が鷲掴みされたように痛む。未だにこんなにも傷ついている自分に、私はそっと溜息を零した。もうあれから何年経ったと思っているの? いい加減、忘れなければ……。
「どうしたの、唯? 今日は全然飲んでいないね」
そんな私の心の内を知るはずもない聡が、心配そうに私を見つめていた。気遣わしげに私の顔を覗き込む。
「疲れた?」
「ううん、平気。ただ今日はお腹が空いちゃって。飲むよりもたくさん食べたいな」
聡に心配をかけたくなくて、私は無理やり微笑んだ。
私の恋人は聡だ。彼の前で昔の恋人のことを思い出して傷つくなんて、おかしいでしょう?
私は、彼が私のために頼んでくれたテーブルいっぱいに並んだ料理を、彼への罪悪感と一緒に飲み込んだ。