強引社長の甘い罠
 やはり認めなければならない。こうして祥吾の傍にいて、彼に笑顔を向けられるだけで、私は舞い上がってしまうのだ。今でも。

 やがてまもなく、祥吾の運転する車は“佐伯不動産”と掘られた近代的な看板がエントランス横にそびえるビルに到着した。看板脇にある地下への入り口へと向かう。どうやら地下にある駐車場に車を停めるらしい。

 祥吾が警備員に顔を見せただけで、ゲートがスッと開いた。ここへはかなり来ているということが窺える。
 それもそうだろう。この仕事はもともと祥吾が持ってきたものなのだ。クライアントと以前から懇意にしていて当然だ。

 組合の事務局はこの会社の一角に設置されているらしい。私たちは今日、ここで打ち合わせだ。

 車を降りた私たちはエレベーターに乗り込み、一度一階で降りた。受付で名前を告げると五階へと案内される。
 私は背の高い祥吾の広い背中を見つめながら、胸の痛みを我慢して彼の後についていった。
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