強引社長の甘い罠

それぞれの思惑

「……と思うんだが、どうだろうか?」

 俺はハッと我に返った。そんな俺の様子を左斜め向かいに座った男が怪訝そうに眺める。慌てて作り慣れた笑みを浮かべた。

「申し訳ありません。仕事で少し気になることがありまして……」

 俺の頭の中は数分前の出来事でいっぱいだった。

 俺がこの店に来たとき、ちょうど帰るところだったらしい唯を見かけた。彼女はブルーのワンピースを着ていて、それが彼女の好きな色だったことを思い出した俺は思わず胸を熱くした。俺の瞳と同じ色のドレスを着た彼女はとてもキレイで、俺は自分の目的も今の状況も忘れてつい魅入ってしまった。

 だが当然、彼女は一人ではなかった。そしてその相手が、彼女が今付き合っているはずの井上ではなく、見知らぬ男だったことに俺は憤りを感じた。全く身勝手で、どうして俺がそんな感情を抱かなければならないのか、腹立たしくも思うのだが。

 男の身のこなしから、一見しただけですぐに出来る男のオーラを感じ取った俺は、二人の様子をしばし遠くから見つめていた。二人の関係は恋人同士のようにも、兄妹のようにも見えた。何かこう、強い絆で結ばれているような感じだ。第三者が割って入れないほどの……。唯にはプロポーズされるような間柄の恋人がいるというのに、他の男とも仲良くやっているのかと思ったら、俺の足は勝手に彼女を追っていた。そして、化粧室から出てくる彼女を憤然と待ち構えてしまったのだ……。
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