強引社長の甘い罠
 こうして彼が俺との食事に彼女を連れてくるのも、そういった事情が絡んでいるのは疑いようもない。いや、もしかすると、彼女のために俺との食事をセッティングしているのかもしれない。
 俺は何とも言えない曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

「それで、さっきの話なんだが……」

 佐伯氏が急に真面目な顔つきをした。幸子さんはさらに顔を赤らめている。

「何でしょう?」

 何とか笑顔を顔に貼り付けて佐伯氏を見ると、彼は少し躊躇う素振りを見せながらも嬉しそうに言った。

「君も三十半ばだったろう?」

「ええ、今年三十五になりました」

 俺は頷く。佐伯氏がちらりと幸子さんを見た。

「幸子も今年二十六になる」

「そうでしたね」

 彼がゆっくりと話す内容の向かう先には嫌な予感しかしない。けれど俺は穏やかな笑みを浮かべたまま黙って話を聞いていた。そうしながら、考えられる限りの対応策をいくつか検討していく。彼が言った。
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