強引社長の甘い罠
「そろそろどうだろう? このとおり、娘は君に惚れ込んでいる。君も決まった相手はいないようだし、この辺りで娘と一緒になって、将来的には佐伯不動産をさらに盛り立てて欲しいと思っているんだが」

 俺はあくまで穏やかかつ冷静に、それでいてきっぱりと告げた。まるで考えていなかったというような、困惑した笑みも浮かべる。

「もったいないお言葉です。しかしながら今は一時的にこちらにおりますが、私はいずれアメリカに戻るつもりでおりますので、ご期待には添えないかと思います」

「日本に拠点を移すんじゃないのかね?」

「ええ、そのつもりはありません。当面はこちらに腰を据えることになりますが、今の会社が落ち着いたらあちらに戻るつもりでいます」

「そうか……」

 佐伯氏が落胆した表情を見せた。彼はどうやら日本で生活する俺に娘を託したかったらしい。だが、幸子さんは諦めなかった。

「パパ、別にいいじゃない。私も去年まで留学してたからあっちでの生活には慣れてるわ。忙しい祥吾を支えることだって出来ると思うの」

「しかしだな、幸子……」
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