不都合と好都合
橋川雅夫
「橋川さん、マイホームを手に入れたんですって?」
会社の休み時間、雅夫が缶コーヒーを飲んでいると総務課の西田雪が声をかけた。
「うん。ローンが大変だけど、仕方ないや。」
雅夫は側の自販機で缶コーヒーをもう一本買って西田雪に渡した。
「あら、ありがとう。」
西田雪は手渡された缶コーヒーを開けながら雅夫の隣の椅子に腰かけて
「じゃあ、お祝いの飲み会を開かなくちゃね。」
と言った。
「何だかんだ言って飲み会を開きたがるな。」
雅夫は何気無く言ったが西田雪は雅夫の腕をバシッと叩き
「そんな言い方ないでしょ。お祝いしてあげるって言ってるんだから。」
と言って
「実はもう皆に言ってあるのよ。橋川さんの新居でお祝いしようって。」
「はい?」
雅夫は我が耳を疑った。
「はしかわさんのしんきょで。」
西田雪はわざわざ雅夫の耳に口を近付けて小声で言った。こうすると親密感がわいて男の人に効果的なので西田雪はよくこの手を使うのだった。ただ同僚達が耳打ちの西田と陰口を叩いている事は知らずにいた。
「は?そんなの勝手に決めるなよ!」
雅夫は思わず立ち上がっていた。
「いいじゃん。どうせいずれは家見せする事になるよ。」
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