レイアップ


「そんな困った顔しないでよ」

ユキが呆れたようにおれにいった。

「ごめん・・・」

「それはどっちのゴメンなの?」

また黙ってしまうおれを見てユキは笑みを浮かべた。

「心配しないで。別に付き合ってほしいとかそういうのじゃないから。ただシュウイチに伝えておきたかっただけ。あー、スッキリした」


そういって、ユキは手を前に伸びをして、おもむろに歩きだす。おれはそれを見て唖然としつつも、同時にふつふつと抑えきれない感情が沸き上がってきた。

「ちょっと待てよ・・・」

絞り出すような小さなおれの声。ユキには聞こえていない。おれは思わず声を荒げた。

「ちょっと待てよ!こっちは全然スッキリしてねえぞ」

勝手に話を完結さそうとしているユキにムカついた。
「なんなんだよ。突然家に押し掛けてきたと思ったら、好きだとか、スッキリしたとか、わけ分かんねえよ!ユキもミウもおれに何がいいたいんだよ。いったいおれをどうしたいんだよ」

不意にミウの名前を出してしまった時、一瞬だけユキの目が驚きに揺れたのをおれは見逃さなかった。まるで幽霊でも見るよな眼差しを向けたユキは、すぐにその動揺を冷たい顔の下に隠していった。


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