レイアップ
「だった?じゃあ今は違うのか?」
「違わないよ!」
今度はユキが声を荒げた。その叫び声に近いユキの声に近くにいたカップルがこっちを見てひそひそ喋っている。
「どうしたんだよ?」
こんなに取り乱すユキを見るのは、ユキの家で飼っていた犬が死んだ時以来初めてだった。突き刺すような目の下には、うっすらと光る涙がにじんでいる。その瞳はどこか悲しみにすがりついているようにも見えて、なんだかただならぬ空気が真夏の気温を下げつつあったが、突然のユキの涙の訳も、何故か過去形になっているミウの事も、その時のおれには全く理解できなかった。