レイアップ
生まれたときから父親のいないおれは、無意識にこのオヤジのことを自分の父親像と重ねていたのかもしれない。
オヤジは、久しぶりに田舎に帰ってきた息子を歓迎するように、目尻に深いシワを浮かばせて笑っている。
「最近、顔みせないから、てっきり辞めちまったと思ってたぞ。それになんだ、その頭は。白髪なら染めなくても、年取りゃ勝手に生えてくるぞ」
そういって、おれのグレーに染まった髪ををくしゃくしゃとかきむしる。
「うるせえ、オヤジの白髪と一緒にすんな」
「まあ、スポーツに見てくれは関係ないからな。好きにすりゃあいいさ」
やけに柔軟な昭和のオヤジ。
「だかな、シュウ・・・」
レジで会計をするオヤジが、急に真剣な顔になった。
「これだけはよくは覚えとけ。いくらか周りの環境が変わっても、お前が本当に大切だと思うものは、絶対に自分の芯に据えておけ。そうすりゃ何があっても、前だけは向いていられる」
いきなり何をいいだすんだこのオヤジは。
おれは、今まで見たことのないオヤジの強い眼差しに少し圧倒されていた。