レイアップ
「・・・なんだそりゃ」
おれが、なんと答えていいかわからず困っていると、オヤジはさっきの笑顔に戻っていった。
「まあ、人生の先輩からの忠告だ。黙って聞いておけ」
それからオヤジは、2割まけといてやるといって値引きしたバッシュを渡してくれた。
時刻は午後一時。店から出ると、突き刺すような日差しに照らされ、いっきに体から汗が吹き出てくる。本日の最高気温は33度です。朝見た、涼しげな顔のお天気お姉さんが頭に浮かんだ。
そろそろミウと約束した時間だ。自転車のカゴにバッシュを入れペダルをこぐ。室内スポーツに慣れきったおれの体力は、太陽の光にどんどんと削られていくような気がした。まるで、フライパンの上に乗せられた氷みたいに溶けて無くなりそうだ。
途中、あまりにも喉がかわくので、自販機の前で自転車を止めた。この国では無数に存在する道端のオアシス。
『お前にとって本当に大切なもの・・・』
暑さにやられたせいか、おれの頭の中で、あの翼の生えた少年の声が聞こえた。さっき、オヤジがいったあのセリフだ。
「おれの本当に大切なもの・・・」