レイアップ

ガタン、とポカリが自販機の取出口に落ちる音で我に返った。おれの指は無意識にスポーツ飲料のボタンを押していた様だ。
ポケットの中で携帯の着信音が鳴った。ミウからだ。
「おそーい!なにやってんの。早くしないと帰っちゃうゾ」

自分から誘っておいて勝手な女。まだ12時50分。約束した時間より10分は早い。

「わかった。すぐいく」

おれは、もう一つポカリを買って、自転車のカゴに入れた。

バッシュと、二本のポカリスエット。周りからみれば、どうみても、これから部活にいく高校生だ。

だが、いくら新しいバッシュを買っても、いまだに炭酸の入ったジュースを飲まずに我慢していても、一年前のあの夏に全ては消えて無くなってしまった。

後ろを振り返ると、真っ赤な自販機の前に、あの少年が立ってこっちを見ているいるような気がした。

「もう、なにもないよ」

そう呟いて、おれはオアシスを後にした。また、灼熱の光を浴びながらペダルをこぐ。なんで、今年の夏はこんなに暑いのだろう。

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