レイアップ
ミウは天使のような優しい顔をしていた。全てを洗い流すような清んだ瞳でおれを見つめる。
「それを超える才能なんて、この世にはないんだよ」
ミウはおれの胸に手をあてたまま、一歩前に詰め寄った。その瞬間、おれに触れていたミウの手が、なんの抵抗もなく身体の中へスルッと溶け込んだ。
おれは息を飲んだ。心臓を直接手で掴まれた気がした。しかし、ミウの手はおれの心臓に触れることもなく、どんどん奥へと進んでいく。気がつくと、ミウの右手は、二の腕近くまですっぽりとおれの身体に入っていた。
ミウの手が、足が、胸が、おれの身体に触れて溶けていく。ミウがキスをするように顔を上げた。おれは自然とミウに顔を寄せる。
唇より先に、鼻と鼻とがぶつかった。ぷにっとした感触の後、やはりミウの顔も、おれの中に溶けていった。唇が触れた感覚はなかった。
ミウの姿がおれの前から完全に消える。
その瞬間、おれの頭の中に、ひとつの映像が流れ込んだ。聴いたことのない誰かの声がざわざわと聴こえる。