レイアップ



「嬉しい。ありがとう、誘ってくれて」

ミウは、慎重に言葉を選ぶ様にしていった。
その様子を見て、デートの誘いが失敗に終わったことがわかった。

おれは、内心ガッカリしていたが、それを悟られないよう、頭上に浮かんだミウの浴衣姿を素早くかき消して、次の言葉を待った。


「私もシュウと一緒に花火観たいけど、私を誘う前にシュウには、誘わなきゃいけない大切な人がいるんじゃない?」

下手な断り方だと思った。
でも、それがおれを傷つけない様にする為の、彼女なりの心遣いなのだろう。

おれには、そんな大切な人も、誘わなきゃいけない相手もいなかった。少なくとも今は。

だけど、これ以上押しても仕方ないだろう。無理やり近づいて今のミウとの関係を壊したくはなかった。

ミウが今の距離を好むならこのままの距離でいい。

見えない未来より、確実に来る明日。男はいつだって臆病だ。


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