レイアップ
昔から勘の鋭いユキにウソをつくには細心の注意をはらわなければならない。おれは、微妙な声色や表情の変化を1ミリでも出さないように、精一杯のポーカーフェイスを決め込んだ。
そうこうしている内にようやくユキとの朝の散歩も終わろとしていた。
去年、ユキが待っているといった橋の前に差し掛かる。この橋を渡ればユキの行く高校はすぐそこだった。
ユキは緩かな風に髪を揺らしながら目を細めた。
「でも、良かった。なんだか元気そうで。ちょっと心配してたんだ」
なんだかすっかりいい女になってしまった幼馴染みが、おれなんかのことを気にしてくれていたのかと思うと、素直に嬉しい気持ちになる。
随分、ユキが大人になったように感じたが、それはただの錯覚だろう。多分、おれには見えていないものが沢山あって、ユキの光る氷のような魅力は昔からそこにあったのだ。ユキは1年分しっかりと成長し、おれは1年その場で足踏みしていただけのことだ。
「もう、元気だけしか取り柄が残ってないからな」
おれがそういうと、ユキは何もいわずに笑顔だけを返した。