ツンデレ専務と恋人協定
専務に向けていた視線が自分でも鋭くなっていくのがわかる。


「…悪い、失言だった」

「酷いですよ、専務。私は専務を信じてるのにアメリカ行きのことは話してくれないし」


謝られなかったら力任せに怒りを専務にぶつけてしまっていたところだった。


「情けねぇけど、不安なんだよ。それなのにアメリカに行かなきゃなんねぇ…」


そう言った専務は、私に背中を向けて大きな体を小さく丸めてしまった。

そんな背中に私は声をかける。

「常務のことは何とも思ってないし、私が好きなのは、専務だけです…」


どさくさに紛れて何をこんな恥ずかしいことを言ってしまってるんだろう。

恥ずかしすぎて語尾が小さくなってしまってたし。


背中を向けていた専務は振り向いて私を見つめてきた。


「だったら、アメリカ一緒に来てくれ」

「え?」


アメリカに一緒に行く?
専務の言葉に再び驚いてしまった。


「新ブランドの立ち上げと同時にアメリカに進出することになった。それで短くても2年はアメリカに行く」


新ブランドの立ち上げは専務がずっと目指していて、それで頑張っていたのも知ってる。


「アメリカに行けば、俺は今よりも忙しくなって、栞奈との時間も減るし、お前は慣れない海外で苦労するのは目に見えてる」


確かに、私は英語も話せないし、アメリカに友達もいない。

それに、旅行ですらアメリカへ行ったことがない。


「それでも、一緒にアメリカに来てほしい」


そう言われても、アメリカで住むなんて不安しかない。


「…ごめんなさい。すぐには答えられない」

「わかった。考える時間はやる。けど、俺はお前と離れるなんて無理だからな」


そう言って、専務はテーブルの上に置いたままになっていたワインの入ったコップに口をつける。

私はそのあともずっと頭が整理されずにぐちゃぐちゃのままで、専務はそんな私の顔色を伺うだけだった。


帰ると言い出した専務を見送ると、深いため息が出てきてしまう。


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