聖夜に舞い降りた天使
いや、この距離では彼女の年齢は分からないので少女と呼んでいいのか定かではなかったが、

僕にはもう彼女が天使にしか見えず、きっと若いのだろうという意識が働いていた。





真っ白なケープからは雪と同じくらい白い細い腕が覗いている。

輝くばかりのブロンドの髪の毛が頭からすっぽり被ったフードの隙間から零れ落ちていた。





だんだんと距離が近づくにつれ、彼女の顔がはっきりと見えてくる。

腕と同じくらいに白く陶器のような肌に
寒さからか赤みのさした頬が映えてみえる。

長くボリュームのある睫毛がくるんっと綺麗にカールしていて、
瞬きする度に影を落としていた。

まるでガラス玉のような透明感のあるアクアマリンの瞳はもし直視されたら吸い込まれそうなほど
濁りがなく澄んでいて、
こちらの邪気を全て浄化してしまうのではないかと思わせる。





彼女は人の気配に気付かないのか、未だ空を見上げたまま掌を天に翳していた。


口元を見ると艶のある唇がクリスマスキャロルを口ずさんでいた。





「Les anges dans nos campagnes(天のみつかいの)」


先ほど教会の聖歌隊も歌っていたことを思い出す。


Les anges dans nos campagnes, 

天使たちが野辺で
Ont entonné l'hymne des cieux ; 

天上の賛歌をうたい始めた 

Et l'écho de nos montagnes 

山々からの木魂(こだま)は 

Redit ce chant mélodieux : 

心地よい歌を繰り返す 

Gloria in excelsis Deo 

天においては神に栄光があるように 

Gloria in excelsis Deo 

天においては神に栄光があるように

美しいソプラノの透き通った響きがしんしんと降り積もる雪に染み渡っていく。










(心が、震える……)






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