続 音の生まれる場所(上)
白い日
3月の第2土曜日はホワイトデー。
つい先月までピンクや赤に染まっていた街中が、何故か白や水色に変わってる。
バレンタインデーは昔から自分に関係があるような気がしてたけど、ホワイトデーというのは縁のない気がして…。
唯一思い出にあると言えば……朔のこと。


中三のバレンタインデーに送った本命チョコのお返しに朔がくれたのは、横笛を吹いてる妖精のオルゴールだった。

「真由みたいだろ?」

公立高校の試験が終わった後、家族で旅行に行った先で見つけたと言って、手渡してくれた。
ピンクのノースリーブを着た妖精は、髪が長くて、当時の私みたいだった…。

「ありがと…可愛い…」

マシュマロやキャンディーが返ってくるとばかり思ってた。だからこの時は、少し驚いた。
同時に、あのチョコが本命だと気づいてくれたのかも…とも思えた。


「そう言えばあの妖精…どこやったっけ…?」

亡くなった後、朔に関係のある物は全て押入れにしまい込んだ。捨てたくても捨てきれなくて、目に見えない所へ押し込んだ…。

フルートを探し当てた時と同じ作業を繰り返す。中学の時のアルバムが入ってる箱の中から、やっと見つけ出した。

「あった…!」

奇跡のような気がする。妖精は傷一つなく、あの頃のままの形で見つかった。
埃を軽く落として、フォトフレームの横に置く。何も貰えない坂本さんからの贈り物みたいな気がする。

「こんなふうに思ったら…朔が拗ねるね…」

今はもう…写真すら飾らなくなった元カレ。それでも、やっぱり大事な人…。

「ごめんね朔……何も貰えないから…許してね…」

人形を朔に見立てて話しかける。手を合わせて、ほんの少しの間、拝んだ。


「…さて。行くとするか!」

フルートの入ったバッグを手に取る。午後から始まるブラスの練習。
あと二週間と迫った本番に胸を躍らせながら、外へと出かけて行ったーーー。
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