続 音の生まれる場所(上)
「ゲホン!ゴホッ!…すみません…ケホン!ご飯が…ノドに引っ掛かって…」

ゲホン、ゴホン!
…咳しながら言い訳する。どうも今日は、タイミングが今一つ合わないみたい。

「大丈夫⁉︎ お茶飲んで!」

ペットボトルのフタを開けてくれる。

「す…すみません…」

ゆっくり一口ずつ、ノドに引っ掛かったもの流すかのように飲み込む。


「はぁー…」

少ししてようやく喉が落ち着いてきた。

「平気?引っ掛かり取れた?」

お弁当食べながらこっちを振り向く。

「はい。なんとか…」

咽せ込みすぎて少し疲れた。今すぐには、何も食べたくない気分。

「…私、もう少しゆっくりしてから食べます。坂本さん…先に練習へ戻られていいですよ…」

あの時と同じことを言う。でも、泣きだしそうだからじゃない。これ以上一緒にいると、また引っ掛けてしまいそうだから。

「…じゃあ、先に戻るよ。ゆっくり食べてからおいで。今日は君が主役なんだから」

立ち上がってこっちを見る。

「はい。そのつもりでキチンと食べます!昨日みたいになったらいけないので…」

心得たように返事する。それに頷き、彼がお弁当箱を返してくれた。

「ごちそうさま。またいつか食べさせて」

嬉しそうな顔。

「はい…また今度」

にっこり笑って答えた。今度と言わず、ホントは今すぐにでも食べてもらいたい。

重い扉を開けて彼が中に入る。それをしっかり確かめて、ほ…っと息を吐いた。
あの夜とは違う幸せな感じがする。お昼を食べ終えて中に入ったら、大好きな人がいて…仲間がいて……音が…溢れてる…。
数時間後にはお客さんが集い、私達の曲を聞いてくれる。

午後6時から始まるステージ。

そこで私は、思いの全てを…語るんだーーー。
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