最後の恋愛Ⅱ
「じゃあ、大麦くんごちそうさま。」

柳生さんが笑顔で言うと、大麦はああと頷いて応えた。

「美味しかったわ、久々にトクしちゃった。」

「あ、柳生さん帰っちゃうんですか?」

日下部さんが、すっくと立ち上がり壁にかけたコートをがしっと掴んで言う。

「じゃあ私も帰ります!ちょっと待ってくださいよ。」

おおおおおお

この状況で置いていかないでよ!

「あ、じゃあ、私も―」

って言いかけた私の腕をしっかりと畳みに縫いとめるように掴んで顔だけ日下部さんたちに向ける。

「じゃあ気をつけて帰れよ。」

はわわわ

ライオンに首根っこ喰らいつかれているような状態なんじゃないだろうか。。

まずいまずいよぉぉ

焦りまくりの私に、日下部さんがにまっと笑って言う。

「安心してください、一応、ちゃんとお付き合いが決まるまでは会社のみんなには黙っておきますから!」

そうだね、それなら安心、じゃないって!

そういう問題じゃないっての!

けど、私が何かを言葉にする前に大麦が答える。

「そうだな、そうしておいてくれ。」

ぎゅっと、大麦が私の手を握り締める。

やめてよ!

しかも、見えないようにとか、そういうことしないでってば!

「森さん、また報告してよ?」

・・・

何も言えない私の様子に、何かを察したのか柳生さんはうふふと笑って背を向けた。

ちょっと―ちょっとぉ!

こんな危険な状態で、大麦に変なスイッチを入れたまま帰らないでよぉ!
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