届屋ぎんかの怪異譚
「だから、根絶やしにしようって? けれど、朔はなにも……」
「いいえ」
何もしていない、と言いかけた銀花を強い口調で遮って、白檀は顔を歪めた。
「朔の――あいつのせいで、晦は殺された」
え、と、小さな声を漏らして、銀花は振り返った。
朔の刀をこともなさげに弾き、その勢いのまま朔に斬りかかる、晦。
ほとんど互角の実力をもつ二人は、先ほどから決着のつかない斬り合いを続けて、どちらも息が上がっている。
「どういうこと? 晦ならあそこに……」
眉をひそめて言いかけた銀花はしかし、次の瞬間、悲鳴に似た声を小さく上げた。
斬り結ぶ二人。
月明かりに照らされたその足元には、朔一人分の影しかなかった。
――どうして気が付かなかったのだろう。
晦が、人間ではないことに。
「よくある権力争いよ」
白檀が、冷笑まじりに言う。
「妾の子だけれど長男の朔。正妻の子だけれど次男の晦。
わたしや晦の意向なんて関係なく、郎党たちは派閥を作る。
そして――朔を立てようとする輩に、晦は一度、殺された」