届屋ぎんかの怪異譚
許さない、と、言った白檀の顔は、もう先ほどまでの人間らしさを失っていた。
目は虚ろになり、そこに映るのはただ、底のない憎しみと悲しみだけ。
「萱村は、わたしの大切なものを二度も奪った。絶対に許さない――許せないわ」
と、そこで、朔と斬りむすんでいた晦が声をあげた。
「――母上、話は終わった?」
まっすぐ朔を睨みながら、けれど口元には薄笑いを浮かべて、晦は言う。
「で、俺は誰を殺せばいい?」
月の光も映さない白檀の暗い瞳が、猫目に向いく。
「千影、あなたは見逃してあげる。けれど、朔は許さないわ」
白檀の言葉に、なぁんだ、と、晦がむくれたように言った。
「じゃあ殺していいのは兄上一人か。つまんないの」
「馬鹿だな。死ぬのはお前だ」
キン、と、ひときわ高い音が鳴る。
白檀と話して注意のそれた晦の刀を、一瞬の隙をついて、朔が弾きとばしたのだ。
玉響と猫目が息を呑む。
晦の表情にももはや余裕はない。
大口を叩いていたけれど、すでに息も切れ、動きも鈍くなっていた。
今でなくとも、晦が負けるのは時間の問題だった。
勝負はついたように見えた。
――しかし。