届屋ぎんかの怪異譚
う、と、短い呻きが聞こえた。
次いで「ごめんね、銀花」と、優しい猫目の声が。
そっと目を開けると、視線の先に、朔は変わらず立っていた。
そして猫目の短刀は――袖に隠した暗器を握った晦の左腕に、深々と突き刺さっていた。
呻いた声は、朔ではなく晦のものだったのだ。
「怖い思いをさせてごめん。騙すつもりはなかったけど、警戒させないために仕方なかったから」
脚から力が抜けて、よろめいた銀花の体をすかさず玉響が支える。
「……千影、そう、あなたまでわたくしから離れていくのね」
「事件から十年、ずっとあなたを探していました。あなたが俺を必要としていなくても、ただ、無事な姿を見たくて。……その十年の間に、いろんな人と出会ったんです」
猫目が言う。
ただまっすぐに白檀を見つめて。
肩の今様と二藍が、まるで応援するように、尻尾で猫目の背を叩いた。
「今の俺は、千影じゃなくて、猫目と名乗ってます。……友が、付けてくれた大切な名です」
そう、と、白檀はうつむいて、つぶやくように言った。