届屋ぎんかの怪異譚
「いろいろとあなたに聞きたいことがあって、遅れてしまったけれど、あたし、これを伝えるためにここへ来たの」
夢を――おのれにとり憑いた縊鬼と同調して、彼女の思念を夢に見た。
あのときは気がつかなかったけれど、猫目の記憶を見て、それから白檀から話を聞いて、疑惑は確信へと変わっていった。
「母様は……山吹は、ここにいるわ」
自分の胸に手を当てて、噛みしめるように、ゆっくりと言う。
そして夜空を振り仰ぐと、両の手を月へ伸ばした。
「母様、お願い。……晦を、連れて行って」
瞬間、銀花の両の瞳が、銀の光を放った。
いつかの満月の日のように。
ただ、前の満月のときと違うことが一つ。
――銀花の眉間の、少し上のあたりに、額の骨が隆起したような、小さな角が生えていた。
「銀花、おまえ――」
「特別な薬があるの。一定期間妖力を溜めこむことができる薬。あたしが作ったのよ。溜めている間は妖力が使えなくなるのが難点だけどね」