届屋ぎんかの怪異譚



唖然とする朔に、銀花は笑ってみせる。


もともと満月の晴れの日にしか銀花は妖化しないので、ここまでで溜められた妖力など、この庭に出てから今までの、ほんの半刻の分にも満たない。


けれど、それで十分だ。

――水月鬼の力は、満月の夜に絶大となるのだから。



どうか、朔を止めてやってくれ。


猫目の記憶を夢に見たとき、眠りに落ちる直前に玉響の声がそう言ったのを、銀花はたしかに聞いた。



朔を止める。

玉響に言われるまでもなく、そうするつもりで銀花はここまでついて来たのだ。



(だから、晦は連れて行く。あなたに弟を、殺させたりしない)



現世と幽世をつなぐ水月鬼の力を使えば、すでに人としての生を終えた晦の魂を犬神と引き離して、幽世へ送ることができるはずだ。


半妖の銀花では力が足りないかもしれないが、数日の間銀花に憑いて銀花の生気を食った、“幽世へ行くべき魂”を媒介にすれば、きっと。




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