届屋ぎんかの怪異譚
銀花の肩から、すっと、ひとつの影が伸びる。
影は輪郭をぼやけさせながらも女の形をとり、銀花から離れて、晦の頭の上を漂う。
晦がめまいを起こしたようによろめき、ひざまずいた。
銀花のやろうとしていることに気づいた朔が、刀を構えた。
晦が連れて行かれる前に、自分の手で斬ろうと考えたのだろう。
銀花は制止する玉響を振り切って、晦と朔の間に立った。
「そこをどけ」
「嫌よ」
「やっぱり邪魔する気だったか」
「えぇ」
「連れて来るんじゃなかった」
「何度も言わせないでよね。朔が連れて行くんじゃない。あたしが来たいから来たの」
殺意をも感じるほどの鋭い眼光に、銀花はひるまず朔を睨み返す。
――ふいに、朔が顔を歪め、目をそらした。
まるで痛みを堪えるような表情で。
「……なんでだよ」
絞り出すように、苦しげに言った。