自惚れ男子の取説書【完】
「琴美」
カツンと革靴の音が響くのとほぼ同時。温もりをまとった影が、背中のすぐ後ろへついたのが分かる。頭上から懐かしい声が、私の全意識を一気に奪い去った。
「あぁ、失礼。琴美の患者さんでしたか?お話し中すみません。姿が見えたので、つい」
スッと私の右側に立った小田さんは、営業用であろうあくまで優しい声色で松山さんへと話しかける。
「琴美はちゃんと仕事してますでしょうか?その…普段はドジで抜けててほっとけないんですが、皆さんにご迷惑かけてませんか?」
「いっ…いえ、そんな」
含み笑いをしながら畳み掛けるように話しかける小田さんの一方、突然の乱入に松山さんは対応できず。赤いんだか青いんだか、よくわからない顔色になってしまっている。
「そうですか、それは良かった。仕事中に邪魔する訳にはいきませんから。それを聞いて安心しました…っと、琴美は仕事中じゃなかったの?」
それまで完全に無視していた私をようやく見ると、わざとらしく話を変えてきた。