自惚れ男子の取説書【完】
「さっきの松山さん、担当してる患者さんの息子さんなんです。仕事もあるのに、マメに面会にいらっしゃるんですよ。あ、小田さんも今日はどなたかお見舞いなんですか?」
どうにかその場を取り繕うように言葉を繋ぎ、ようやく仕事用の顔を作りあげ顔をあげた。
右の肩がすぐに触れてしまいそうな至近距離。先ほどの穏やかな笑顔はなりを潜め、小田さんはひりつく程冷たい空気をまとっていた。
「お前…ほんと、何なの?」
懐かしいテノールはひどく冷静で、こんなに傍にきるのに一気に突き放される。怒りだけでは説明のつかない、嫌悪すら感じる冷たい視線。
その距離感にひどく寂しさと大きな戸惑いを感じながら、悟られないよう必死で笑顔を張り付けていた。
「何なのって…。巻き込んでしまった事は謝ります。すみません、私病棟に戻らないと」
目が合えば何もかも隠せなくなってしまう。
張り付けた笑顔と合わない視線で形式的に一礼する…と、全てが逆効果だった。