自惚れ男子の取説書【完】

松山さんは食道の手術を控えている。うちの病棟の中でも、かなり大がかりな手術だ。

喫煙、飲酒が危険因子として挙がる食道癌。彼も例に違わす、かなりハイリスクな患者さんだ。


これまでの喫煙歴を見ても、術後の呼吸状態が悪化しやすいのは容易に想像できる。だからこそ、呼吸器内科の医師とも連携して進めてるっていうのに…。


私達がいくら配慮しても、それが理解されず受け入れられなければ何の意味もない。だって、治療するのは患者さん自身なんだから。


伝わらないもどかしさ、苛立ち。何だかやりきれなさを感じる瞬間だ。

「よしっ」


暗い気持ちを断ち切るよう声を出すと、土で汚れた手をはたき立ち上がった。

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