もう一つのダイヤモンド
そのまま行ってしまうと思って、見送ろうと顔を上げると、今日はじめて目が合った。

「香江、一緒に帰ろう。」

その優しい声を聞き、瞳を見たとき、心の底からうれしさがじんわりとあふれて、気づけば笑顔でうなずいていた。

一歩踏み出そうとして、ふと、周囲が静まり、注目の的となっていることに気づく。

まずい、完全にばれたよね。

ずっと囲まれていた隼人さんが私を見てくれていたことに、うれしすぎて、状況を一瞬忘れた。

それでも、ここで立ち止まってしまったら、どうしていいか分からなくなるから、とりあえず、うつむいて、

「お先に失礼します。お疲れさまです。」

と薬局長の前あたりで、なんとか声を出し、隼人さんのところへ行くと、隼人さんが歩き出して、私はそのまま歩を進める。

「お疲れ。」 

薬局長のお疲れは、何か含まれているようだったけど、もうとにかく早くタクシーに乗りたい。薬局長のお疲れに周りのスタッフが反応したのか、

「えー」とか、「付き合ってるの!」とかそんな声が聞こえる。

タクシーの近くには真美さんがいて、

「否定は無理だけど、うまく言っときます。」

と笑いながら言ってくれて、隼人さんは呑気に、

「よろしくー」

と返していた。

私は、

「お先に失礼します。」とだけ頭を下げて、隼人さんに促されて、タクシーに乗り込んだ。



                                          
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