二人の『彼』
ケイキと酒

「先輩、ただいま……って」



夕方になり、久しぶりに新撰組から解放された俺は四季にやって来たのだけれど、見た限りでは先輩の姿はなかった。



どこかへ出掛けているのだろうか。



「どうやらいないようだな」



と。



背後で呟きが聞こえた。



声の主も先輩のことを言っているようで、その呟きには明らかに落胆の響きが含まれていた。



振り向くと、そこに立っていたのは、美しい金髪の男性。



確か───



「ケイキさん」



俺が新撰組に入る前に何度か顔を合わせた、四季の常連客の一人だ。



「久しいな、恭」



ケイキさんは、俺に向けるにはもったいないくらいの笑顔をくれる。



この美しい笑顔と口説きのテクニックで、落とせない女はいないのではないかと思う。



金色の美しい髪に、端正な顔。



四季に来れば、いつも決まって酒ばかり。



しかし思えば、俺はこの人のことをそのくらいしか知らない。



何せ初対面で「ケイキ」という如何にも胡散臭い名前を名乗られているのだ。



名前か名字かもわからない。



あるいはニックネームかも。



でも、この纏う雰囲気というか、何というか……とにかく、ただ者ではないような感じはある。



少なくとも、そこんじょそこらの庶民ではあるまい。



「折角だ……少し付き合え」



この軽い誘いによって、俺はこの人の全貌を知ることになる。

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