二人の『彼』
しかし。
そんな決意は早々に打ち破られることになる。
既に突撃の合図はあった──先発組はもう討ち入りに入っているだろう。
俺が機会を窺いつつ、池田屋の裏口に行こうと、足を向けたときだった。
「っ……先輩?!」
そう。
そこにいたのは、誰でもない──先輩だった。
「何でいるんだよ!!」
声を張り上げる。
最後に会った、あの時を思い出す──自分が悪いことはわかっているのに、謝罪の言葉が、出てこない。
また、責めるような言葉を、並べてしまう。
「来るな!」
俺の怒号に、びくりと先輩は震える。
別の言い方もあっただろうに、これでは俺が拒絶しているようにしか聞こえない。
「早くっ……!」
そこへ。
言葉を止めた俺を見て、先輩は入り口の方を振り向く。
先輩の肩越しに──『彼』が。
驚いた表情で、立っていた。
先輩は、『彼』の方へ足を踏み出す。
こちらをもう見向きもせずに。
「……っ」
耐えられなかった。
駆け出す。
池田屋の中へ。
むやみやたらに剣を振るう。
峰打ちにしたのか、死んだのかもわからない。
相手もそれなりの実力だし、死んではないか。
でも、そんなことも、何も考えられない。
俺の頭には、先輩のことしかなかった。
「……っ」
何で。
『彼』は、この日は出歩くなと忠告したと
、言っていたはずなのに。
それは嘘だったのか。
それとも先輩がその忠告を聞かなかったのか。
何でここにいるんだ。
何で元の時代に、帰ってないんだ。
違う。
そんなことに、怒っているんじゃない。
じゃあ何に怒っているんだ。
わかんない。
もう、何もわからない。
何も考えたくなくて、俺は剣を振りまくる。
「ぅあああぁぁぁああっ!!」
「恭!!」
猛獣のごとく剣を振り回していた俺の背後から聞こえたのは、近藤さんの声だったか。
確認する間もなく、その直後、後頭部に衝撃を感じて、俺は意識を失った。