ご近所さん的恋事情
ここから一歩も動けないのに、過ぎていくばかりの時間に焦りも出ていた。だから、知っている顔を見て、安堵した。

渉は瑠璃子の表情の一つ一つを見逃さなかった。


「瑠璃子さん。こいつ、誰?」


「こいつ」呼ばわりで十分だと瞬時に判断をする。その判断は間違っていない。ただ、男を怒らせることにはなっているが。


「おい、お前こそ誰だよ?随分と偉そうだな?」


どう見ても渉のほうが年下に見える。年下に「こいつ」呼ばわりをされて、黙っている男ではない。怒りで、男は瑠璃子の肩を持つ手に力を加えた。

痛みを感じた瑠璃子は顔を歪める。渉はそんな表情でさえもしっかり見ていた。瑠璃子がこの男に好意がないことは明らかだ。遠慮なく、この男をどかそう。


「瑠璃子さんを離してくれない?俺の大事な人だから」


大事な人…いろんな意味に取れる。男はどういう意味に捉えるべきか考えた。

瑠璃子も同じ思いで言葉の意図を探る。


「瑠璃子ちゃん、こいつとどんな関係?」
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