蜂蜜漬け紳士の食べ方
「ほら、これなんかも美味そうだ。食えって」
手にした白皿に、中野が次々と食事を盛り始めた。
「私、そんなに食欲が…」
「いいからいいから。はいよ、ローストビーフ」
いつの間にか二枚目の皿に盛りつけられた牛肉が彼女へ手渡された。一緒に、フォークも。
アキは思わず眉根をひそめたが、中野には通じないのか、彼の口端は大きく笑った。
「最近お前元気無かったろ?疲れてる時には旨いもんでも食べるのが一番だって」と言って。
同期はそれきりアキには言及せず、ローストビーフを頬張る。
彼女の視線が自分の手にある皿に移った。
「…………何で中野くんって、彼女いないんだろうねぇ」
「喧嘩売ってんのか?」
「褒めてるんだよ」
横の同期につられ、アキは仕方なく一口だけ牛肉を口へ運んだ。
柔らかな肉質が口の中にふんわりと馴染む。
「お前がなってくれたら良いんだけど」
「…冗談」
「はは、ばれた?」
やもすると告白にも似た同期の発言に、けれどアキの視線は中野ではなく、未だステージへとあった。
伊達は変わらずにまだステージ近くで多数の人数に囲まれていたが、いつの間にかオオシマ・ムツミは伊達の傍から消えていた。
彼女もまた、違う人へ挨拶回りに行ったのだろうか。
「…………」
アキは手元のローストビーフを見るフリをして、ちらと自身のドレスを視界に入れた。
綾子が選んでくれたドレスを、アキなりに気に入っていた。
自分一人ではなかなか選ばないような爽やかなブルーのサテン生地は滑らかで、一歩一歩歩く度に皮膚へ吸いつく感触は、自分をお姫様のような錯覚すらさせてくれた。
しかし今気づいてしまうと。
オオシマのように長くない足は、何だかひどく不格好のように思えた。
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