蜂蜜漬け紳士の食べ方
ロングアイランドアイスティーを半分ほど飲んだところで、氏家との会話はずっとスムーズに行くようになっていた。
適度なアルコールのおかげでアキ自身が饒舌になったというのもあるし、氏家もまた実に会話を繋ぐのが上手だったのだ。
「中野くんは日展の取材に来てもらってね。それから何度か。
今はもう私は日展の審査委員は辞めているんだが、やはりどうしても美術界に未練たらたらでね。
こうやって未だに色んな付き合いの場に出てきてしまって」
「そうでしたか。何か作成活動は?」
「学生の頃はしていたが、現在はもっぱら美大で学生達を教える立場だよ」
日展の審査委員を辞めた、と聞いて少し首を傾げた。
あの展覧会はなかなか美術派閥の差が激しいものだ、早々簡単に辞退出来るのだろうか?
そこは人それぞれだしな、とアキは深く考えず、更にグラスを煽った。
「しかしまぁ、伊達先生も大いにやり手だね。
日展受賞後はマスコミを一切シャットダウンしていた話題性もあって今回の個展も大成功だし、モデルの若い女性とよろしくやっているっていう噂も聞いたし」
羨ましいねえ、と氏家は肩をすくめた。
この話題一つで、アルコールで幾分かゆるんでいたはずのアキの口端が固まっていく。
結局、どこに行ってもこの話題からは逃れられないらしい。
「そうなんですか」
胃の底から振り絞ったような彼女の返答に、氏家は続ける。
「ほら、今夜もそのモデルさんが招待されていただろう。さすがにベッピンさんだったねぇ」
「……………」
「おや、グラスが空いたな桜井さん。もう一杯どうかな」
「お願いします」
「ははは。なんだかんだ言いつつ、いける口じゃないか」
二杯目のロングアイランドアイスティーが運ばれる頃。
氏家は柔和な態度のまま声をそっとアキの肩口へ落とした。
「こんなオジサンに付き合ってくれて嬉しいね。
…そのお礼と言っちゃなんだ、込み入った話があるんだけどどうかな。
桜井さんも立ちっぱなしで足も疲れただろうし、この上のフロアのバーカウンターで1杯付き合ってくれないかな」
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