蜂蜜漬け紳士の食べ方

氏家の言うとおり、パーティー会場から一つ上の階は全体がバーフロアになっていた。
白を基調にコーディネートされていた会場とは全く違う雰囲気で、ここのフロアは少し暗めの照明がムーディーな空気を演出している。

いわゆる『大人』の空間だ。

一面に張られたガラスから望むのは、まばゆいばかりの明かりだ。
こんなところでプロポーズされたら、簡単に落ちる女性もいるだろうと予想がつくほどにロマンチック。

フロアには数人の客がいるも、皆静かに話していて、BGMのジャズの方が耳に残る。

氏家は早々にバーカウンターへ腰を下ろした。


「いらっしゃいませ」

バーテンダーが神妙な面持ちで、アキと氏家に温かいタオルを差し出す。
どうもバーテンダーというのはどこの店に行ってもこんな硬い雰囲気な気がする。
むしろそういう職業病なのだろうか。


「アキさんのは私が決めてもいいかな?」

氏家がタオルで手を拭きながら言った。


「あ、はい。お願いします」

「じゃあアレキサンダーを彼女に。私はジンバックを」

「かしこまりました」


注文を受けるなり、バーテンダーは背面の棚から数本の瓶を選ぶ。
何の迷いもなく銀色に輝くシェーカーへ適量を注ぎ始めた。
そのタイミングでアキが口を開く。


「氏家先生、それでお話というのは…」

「野暮だなあ。そう急がないでよ、はは」


氏家の曖昧な笑顔に、アキは『込み入った話』は込み入っていないであろう事を確信した。
それならそれで、適当に付き合ってまたパーティー会場に戻ればいいだけだ。

万が一の話。
氏家が自分をどこかへ連れ込もうとするような動きがあったとしても、こんな公の目があるバーラウンジでは実行に移せまい。
彼にだって守りたい地位くらいあるはずだ。


「お待たせ致しました、アレキサンダーでございます」


三角形のショートグラスに並々と注がれたのは、何とも濃厚なベージュのカクテルだった。
今度は何の味だろうか、と手をつけないアキに氏家が付けたした。


「さっきは甘酸っぱいカクテルだったからね、今度はミルクの甘みが強いモノにしてみたよ」

「ありがとうございます…」

先程のロングアイランドアイスティーと合わせれば、これで実に3杯目だ。
果たしてアルコールの酔いがどう回ってくるのか心配にはなってきたものの、ここで断る訳にもいかない。

続いて、氏家のジンバックが彼の前へ置かれた。


「じゃあ、とりあえず乾杯しよう」

「あっ、そ、そうですね」

「はい乾杯」

お互いにグラスを軽く上げる。
氏家が簡単にグラスの中身を飲み下していくのを見て、アキはチョビリとカクテルに唇をつける。
『アレキサンダー』は確かに彼が勧める通りに美味しかった。
こってりとした甘さで、まるでカルアミルクにも似ている。


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